かいぶんしょおきば

怪文書を適当に投げ捨てておくところ

生存本能ヴァルキュリアネタ

もともと構想してた設定全部ぶん投げて初めからクライマックスでいきます。

 

生存本能ヴァルキュリア第11話Bパートからのお話。暗め。

 

PV-003グレイプニールを駆り、仇敵である【黒塗り】と相対する夕美。その額には焦りからか汗が滲み、呼吸は乱れ、明らかに平静を失っていた。
「このっ……堕ちろォ!」
仇敵を撃ち落とせない焦燥感に駆られ、照準も定まらないまま多弾頭ミサイルを発射する。しかし、黒塗りはいとも容易くそれらを回避し、隙だらけの彼女の機体の背後へと回り込んだ。

「……ッ!しまっ…」
自分の死角へと潜り込まれたことに気づいた時にはもう遅く、黒塗りの通り名に相応しい黒光りする銃口が彼女の機体へと狙いを定めていた。回避も防御もできない、完全に『詰み』の状態。襲い来る死の恐怖から思わず目を閉じてコックピットで固まる夕美。

しかし、何秒たてどその時はやってこない。恐る恐る目を開くと、そこには信じられない光景が広がっていた。

黒塗りがいたはずの地点と夕美のいる地点のちょうど中間地点。そこで藍子の乗っているPV-002スレイプニールの機体が大破していた。装甲はあちこちボロボロにヒビ割れ、ところどころに黒塗りの銃撃が貫通したであろう穴も空いていた。左腕は肘から先が消し飛び、とても戦闘続行できるような状況ではなかった。

「藍子ちゃん!?…藍子ちゃん!返事して!」
個人回線を開き、スレイプニールのコックピットにいるはずの藍子へと呼びかける夕美。しかし、いつもならその優しくもどこか芯のある強さを感じさせる声は夕美へと届かない。ジャミング粒子の影響で電波が届いていないか、計器の故障という線も考えたが、レーダーなどの計器は正常に作動している。この場合藍子の応答がない理由は一つしかない。すなわち

 


高森藍子相葉夕美を庇って被弾し、そして死亡した。

 

「う………そ………」
受け入れられない現実を突きつけられ、呆然とする夕美。自分の焦りがミスを生み、そのミスのせいで藍子は死んでしまった。
「私がミスしなければ…私が最後まで諦めず戦っていれば…私のせいで…藍子ちゃんが……
私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ

…………いやああああああああ!!!!!!!」

絶叫し、コックピットにうずくまる夕美。完全に取り乱し、ヴァルキュリアシステムとの同調率がみるみる低下していく。強襲母艦『オーディン』で指揮を取っていた橘ありすが何やら通信で喚いていたようだが、夕美にはその言葉も届いていない。やがて、システムとの同調率が0%となりヴァルキュリアシステムが強制終了、動かなくなった機体の中で一人、 夕美は絶望のどん底にいた。大切な仲間であり、友達である藍子を自分のせいで死なせてしまった。自分が藍子を殺したのだ。そう自分を責める言葉ばかりが心に浮かんでは彼女自身へと突き刺さっていく。ふと顔をあげると、目の前には藍子の仇である黒塗りが次はお前だと言わんばかりに銃口を夕美の方へ向けていた。システムがダウンし、機体が動かない今、夕美にそれを避ける術はない。やがて、銃口が火を吹いた。

ただし、それは黒塗りのものではない。

黒塗りとの戦闘前に敵部隊に分断されていた美波の機体、PV-001グングニールに搭載された高精度ビームライフルが放った一撃であった。それは正確に黒塗りの武装を貫き、破壊する。新たな敵の乱入に不利と判断したのか、黒塗りは撤退していった。

「ごめんなさい!ヤツらに囲まれちゃって全然合流できなくて……夕美ちゃん?」

部隊長でありながら敵部隊に分断され、仲間に負担を強いてしまったことを謝りながら美波がそばにやって来る。だが、夕美にはそれに返答するだけの余裕はない。夕美の様子と、彼女と共にいたはずの藍子の機体が見当たらないことを不審に思い周りを見渡す美波。そして、夕美の機体のそばに見覚えのある機体、スレイプニールの残骸を発見し、思わず息を飲んだ。慌ててスレイプニールへの回線を開くも、藍子からの応答はない。

「そんな……嘘でしょう?」
予想外の事態に茫然とする美波。自分が離れている間に何が起きたのか、その結果は目の前に転がっているのにその事実を脳が受け入れようとしない。

「ごめんなさい……私のせいで藍子ちゃんが……藍子ちゃんがぁ……」
うわ言のように涙を流しながら謝罪の言葉を紡ぎ続ける夕美。普段持ち前の明るさで部隊のムードメーカーとして立ち振る舞っていた彼女の姿はそこにはない。絶望の闇の中に沈んでいく夕美にかける言葉を見つけられない美波は、彼女から目を反らすようにスレイプニールの方を見た。左腕はなくなり、機体のあちこちに穴が開き、頭部メインカメラも破壊され、ところどころが青白く点滅する機体。破損状態からしてまずパイロットは生きてはいないように見えた。

「………待って」
しかし、美波は気づいた。搭乗者と同調(シンクロ)することで機体性能をより効率良く引き出すヴァルキュリアシステム、それを稼働している時、機体は青白く光るということに。そして、大破したスレイプニールはまだその輝きを失っていない。つまり…

「もしかして…!」
美波はコックピットハッチを手動で開け、宇宙空間に身を乗り出し、大破したスレイプニールへと近づく。外側からコックピットをこじ開け、ぐったりとした藍子の側へと降り立つ。藍子は、頭から血を流し意識を完全に失っていた。しかし、脈はまだ残っている。

「やっぱり生きてた……!まだ間に合う!夕美ちゃん!聞こえる!?」
「……美波……ちゃん……?」
「藍子ちゃんは大丈夫、まだ息はあるわ!早く母艦に戻って治療用ポッドに入れれば助かるかもしれない!」
「ほんと……?」
「えぇ。夕美ちゃんはありすちゃんに連絡して回収班を要請して。藍子ちゃんは私の機体に乗せて先に連れて帰るから」
「……分かった」

そこからの行動は迅速だった。救援要請を受けたオーディンから、文香を中心とした回収班が出撃、大破したスレイプニールと、システムダウンして動かないグレイプニールを回収。美波はそれに先立ち自らの機体で藍子を連れてオーディンへと帰還、無事藍子を治療用ポッドへ入れることができた。治療担当の清良によれば、あと数分処置が遅れていたら命はなかったらしい。まさに奇跡的な出来事であった。


そして数日後………

 

「………ん………あれ、ここは……?確か、夕美ちゃんが撃たれそうになって、必死になって止めようとして………」
目を覚ました藍子は途切れ途切れになった記憶を必死に呼び醒まし、現状把握をしようとした。しかし、夕美と黒塗りの間に割って入ってからの記憶が何もない。

「何があったんだっけ…?とりあえず部屋の外に……痛ッ」
立ち上がろうとしてふと左手を支えにしようとし、その瞬間藍子の体に激痛が走る。突然の痛みに驚きながらもどうにか立ち上がろうとしたが、両足を地につけて立ち上がった直後、左足にも同じような痛みが走り、その場に倒れこんでしまう。ちょうどそこに、様子を見に来た夕美が現れた。

「藍子ちゃん!大丈夫!?」
床に倒れこむ藍子の元へと慌てて駆け寄る夕美。夕美の手助けでとりあえずベッドへと腰掛けると、藍子は夕美から事の顛末を聞いた。

「私のせいで…ごめんね、藍子ちゃん…」
「そ、そんな…!全然夕美ちゃんは悪くないですよ。それに、私は今こうして無事生きてるじゃないですか」
「でも、私を庇って藍子ちゃんが危ない目にあったのは事実だし、それに後遺症まで…」
「そんなに自分を責めないでください…私は大丈夫ですから」
被弾する直前、藍子は無我夢中になるがあまり無意識にヴァルキュリアシステムのリミッターを解除、システム同調率が一時的に300%を突破し、その状態で被弾したことでダメージが藍子の体にフィードバックした。特に損傷のひどかった左腕、左足は自分で満足に動かせないほどのダメージを残しており、半壊した頭部へのダメージの影響で片目の視力をほぼ失った。戦闘はおろか私生活を送ることにすら支障をきたすような大怪我をさせてしまったことに夕美は自責の念を感じずにはいられなかったのだ。泣きながら謝罪する夕美を、満足に動かすことができる右腕で抱きしめる藍子。その瞳は慈愛に満ちていた。

「確かにちょっと怪我しちゃいましたけど、みんなが私のために動いてくれたから私は今こうして夕美ちゃんとお話できてるんです。それだけで私は充分ですよ。ありがとう、夕美ちゃん」
「藍……子…ちゃん……」
藍子の暖かい言葉に更に涙を流しながら藍子を抱きしめる夕美と、それに応えて優しく抱きしめ返す藍子。その姿を部屋の外から見ていた美波は2人に気づかれないようそっと踵を返した。
「もうこんな悲しみの連鎖を生み出させるわけにはいかない……この連鎖を私が断ち切る!」
1人静かに宣言する美波の瞳には、熱い意思の炎が燃えていた。

 

 

 

次回、生存本能ヴァルキュリア最終回
『蒼穹の果てに女神、散る』